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スーシー・ダイアン35はHRTに使える?個人輸入ピルが危険な4つの理由

スーシー・ダイアン35はHRTに使える?個人輸入ピルが危険な4つの理由

最近、X(旧Twitter)やDIYコミュニティで「スーシー(Sucee)」というピルが話題になっています。オオサカ堂などの個人輸入サイトで1箱数百円〜と非常に安く、しかもエストロゲンと抗アンドロゲンが1錠にまとまっています。「これ1つで安くHRTができるのでは?」というわけです。

スーシー(Sucee)はダイアン35(Diane-35)のタイ製ジェネリック避妊ピルで、成分はエチニルエストラジオール0.035mgと酢酸シプロテロン(CPA)2mg。重症ニキビ・多毛症の治療や避妊のための薬であり、トランス女性のHRT用に作られた薬ではありません。

結論から言います。スーシーは性別適合ホルモン療法(GAHT / HRT)には推奨されません。 むしろ避けるべき製剤です。なぜそう言い切れるのか、4つの理由を一次資料とともに解説します。


結論:スーシーはHRTには推奨されない


スーシーとは何か(成分の整理)

項目内容
製品名スーシー(Sucee)
分類ダイアン35のジェネリック(一相性の低用量ピル)
エストロゲン成分エチニルエストラジオール(EE)0.035 mg=35 µg
黄体ホルモン/抗アンドロゲン成分酢酸シプロテロン(CPA)2 mg
メーカーBIOLAB Co., Ltd(タイ)
本来の適応重症ニキビ・多毛症の治療、避妊

ここで押さえておきたいのは、「ピル(経口避妊薬)」と「HRTの薬」はまったくの別物だということです。避妊ピルは、シスジェンダー女性が「自前の女性ホルモンが出ている体」に、避妊目的で上乗せする設計になっています。一方トランス女性のHRTは、テストステロンを抑えつつ、女性域のエストラジオール値を長期にわたり安定して維持することが目的です。成り立ちがそもそも別物なのです。


なぜ今「スーシー」が話題なのか

話題になる理由はよくわかります。ただ、その魅力はそっくりそのまま危険の理由でもあります。

  • 安い:個人輸入で1箱あたり数百円程度と、非常に安価。
  • オールインワン:1錠にエストロゲンと抗アンドロゲンの両方が入っている。
  • 入手が簡単:処方箋なしで個人輸入サイトから買える。

「安い・1つで済む・すぐ買える」。DIYの世界では魅力的に見える3拍子です。しかし、この3拍子こそが「用量を細かく調整できない」「天然型に切り替えられない」「血中濃度を測れない」という安全管理上の致命的な弱点と表裏一体になっています。


理由①:エチニルエストラジオール(EE)の血栓リスク

最大の問題はこれです。エチニルエストラジオールは、肝臓での凝固因子の産生を天然E2とは比べものにならないほど強く乱します。

天然型エストラジオール(17β-エストラジオール、E2)の化学構造式天然型エストラジオール(E2)
エチニルエストラジオール(EE)の化学構造式。E2に付加されたエチニル基が色で強調されているエチニルエストラジオール(EE)

エチニルエストラジオール(右)は、天然型エストラジオール(左)に「エチニル基」が付いただけの合成エストロゲン。この小さな違いが肝臓での代謝を変え、血栓リスクを大きく押し上げます。
構造式:Wikimedia Commons(パブリックドメイン)

  • 経口のエチニルエストラジオールは、天然型E2の内服と比べて静脈血栓塞栓症(VTE=血栓)のリスクをおおよそ6〜20倍に高めるとされます(比較対象や集団により幅があります) [3] [4]
  • 歴史的にも、初期のトランス医療では高用量のエチニルエストラジオールが使われ、心血管死や肺塞栓症の増加につながった時期がありました。その反省から、現在のガイドラインはEEを外しています [5]
  • ダイアン35およびそのジェネリックは、エチニルエストラジオールを含むため、避妊ピルの中でも血栓リスクが高い部類に入ります [3]

血栓は、深部静脈血栓症(足のむくみ・痛み)から肺塞栓症(突然の息切れ・胸痛)、脳梗塞へと至る、若くても起こりうる命に関わる合併症です。「少しでも安全マージンを削る選択」を、わざわざ避妊ピルで取りに行く理由はありません。

詳しくは絶対に禁止されたエストロゲンも参照してください。スーシー/ダイアン35は、当サイトでも明確に「HRTで使ってはいけないエストロゲン」として挙げています。


理由②:女性化効果は天然E2に「劣る」

「リスクが高くても効果が高いなら……」と考えたくなるかもしれませんが、ここが重要な誤解です。

スーシーに入っているエチニルエストラジオールは 35 µg にすぎません。経口避妊薬としてはこれで十分でも、トランス女性の女性化(乳房発育・皮膚や体脂肪分布の変化)を十分に進めるエストロゲン作用としては、天然型E2をしっかり投与する標準的なHRTに見劣りします。ガイドラインも、女性化には天然型E2を用いることを推奨しています [2] [7]

つまりスーシーは、血栓という重いリスクを背負うわりに、肝心の女性化はついてこない選択になりがちです。リスクばかりが大きく、見返りは小さいのです。


理由③:CPA 2mgは抗アンドロゲンとして中途半端、しかも血栓の掛け算

スーシーには酢酸シプロテロン(CPA)が 2 mg 含まれています。「抗アンドロゲンも入っているから一石二鳥」と思われがちですが、ここにも2つの落とし穴があります。

(1) 量が中途半端

性別適合ホルモン療法で抗アンドロゲンとしてCPAを使う場合、近年は 1日 5〜12.5 mg 程度の低用量で十分とされています [6] [1] 。スーシーの2mgはニキビ・避妊を想定した配合量であり、GAHTでテストステロンを女性域へ確実に抑える用量として検証されていません。固定配合の合剤では、血中濃度を見ながら用量を細かく調整することもできません。

(2) CPAそのものにもリスクがある

CPAは単体でも血栓(VTE)リスクを持ち、これが経口エチニルエストラジオールの血栓リスクと相乗的に重なります [3] 。さらにCPAは、高用量・長期使用で髄膜腫(脳腫瘍)リスクが上がることが確立しており、欧州医薬品庁(EMA)は使用制限令(Restrictions)を出しています [8] [9] [10] 。スーシーの2mgは低用量側ではありますが、「血栓リスクのある薬2種を、調整不能な形で同時に飲む」設計であることに変わりはありません。

CPAの正しい使い方はCPA(酢酸シプロテロン)の解説を参照してください。


理由④:血中濃度をモニタリングできない

安全なHRTの大前提は、血液検査でホルモン値を確認しながら用量を調整することです。ところがエチニルエストラジオールはE2とは化学的に別の分子のため、一般的なエストラジオール(E2)検査ではほとんど反映されず、実際のエストロゲン暴露量を数値で把握できません [7]

つまりスーシーを飲んでいる間は、

  • 自分の体に今どれだけのエストロゲン作用がかかっているのか数値で把握できない
  • 多すぎ/少なすぎの判断ができない
  • 切り替えや減量の判断材料が得られない

という、計器を持たずに飛ぶような状態になります。これは減害(ハームリダクション)の観点から見ても、避けたい状況です。血液検査の考え方は血液検査ガイドにまとめています。


では、何を使えばいいのか

スーシーの代わりに推奨されるのは、「天然型エストラジオール」+(必要なら)「抗アンドロゲンを別建てで低用量」という、ガイドラインに沿った組み合わせです [1] [2]

スーシー(ダイアン35ジェネリック)推奨されるHRTの形
エストロゲンエチニルエストラジオール(合成・高血栓リスク)天然型17β-エストラジオール(経口プロギノバ/舌下/貼付/ジェル/注射)
血栓リスク高い(特に経口EE)相対的に低い(特に貼付・ジェルなど経皮)
女性化効果中途半端用量・血中濃度を最適化できる
抗アンドロゲンCPA 2mg固定(調整不可)必要に応じCPA 5〜12.5mg等を別建て・調整可
血中濃度の測定実質できないE2値を測って調整できる

具体的な選択肢はエストロゲン総覧経口エストラジオールを参照してください。経皮(貼付・ジェル)は血栓リスクの面で特に有利です(投与経路の違いは経口と注射の比較も参考に)。血栓をはじめとするリスク全般はリスクと緊急時の対応にまとめています。


今スーシー/ダイアン35を飲んでいる人へ

「もう飲んでしまっている」「今まさに常用している」という方も、落ち着いて読んでください。

  • まず血栓のサインがないか確認する:下のWarningBoxにある症状が出ている場合は、切り替えより先にただちに受診し、エチニルエストラジオール(ピル)を飲んでいることを医師に伝えてください。
  • エストロゲンは急にゼロにしない:自己判断でいきなり全部やめると、更年期様の症状や長期的な骨密度低下を招きます。天然型E2製剤へ「切り替える」のが基本です。
  • 抗アンドロゲンは分けて考える:CPAが必要なら、合剤ではなく単剤で1日5〜12.5mgへ。エストロゲンを下げると同時にCPAも下げるといった同時変更は避け、できれば医師と相談しながら進めてください。
  • 経皮への移行を検討:血栓リスクを抑えるため、エストロゲン側を貼付・ジェルへ寄せるのが有利です。
  • 早めに受診してください性別適合医療に理解のある医療機関で、血液検査を含めて相談するのが最も安全です。

よくある質問(FAQ)

Q. スーシーはHRTに使えますか? 推奨されません。エチニルエストラジオールの血栓リスク、中途半端な女性化効果、調整できないCPA量、血中濃度を測れない点から、HRTの薬としては不適切です。

Q. オールインワンで安いのに、なぜダメなのですか? 「安い・1つで済む」ことは、そのまま「用量を調整できない」「天然型に切り替えられない」という欠点になります。さらにEEとCPAという血栓リスクのある2成分を、調整不能な形で同時に飲む設計です。

Q. ダイアン35やスーシーを個人輸入してHRTに使うと危険ですか? 危険です。エチニルエストラジオールの血栓リスク、エストロゲン値を測れない「計器なし飛行」、CPA 2mgの用量調整不能という3点が重なります。処方を受けずに使い続けると、これらのリスクを管理する手段がありません。

Q. CPA 2mgで男性ホルモンは十分抑えられますか? 2mgはニキビ・避妊向けの配合量で、GAHTでテストステロンを確実に女性域へ抑える用量として検証されていません。近年の研究では1日5〜12.5mg程度の低用量で十分とされています。

Q. すでに飲んでいます。今すぐ全部やめるべき? エストロゲンを急にゼロにするのは避け、天然型E2製剤への「切り替え」を。自己判断での断薬ではなく、医師への相談を推奨します。血栓のサイン(上記)が出たら即受診してください。


まとめ

  • スーシーはダイアン35のジェネリック避妊ピルで、中身はエチニルエストラジオール0.035mg+CPA 2mg。
  • エチニルエストラジオールの血栓リスクが天然E2より桁違いに高く、ガイドラインもGAHTでの使用を退けています。
  • 女性化効果は中途半端で、リスクと見返りが見合いません。
  • CPA量は調整できず、血中濃度も測れないため、安全なHRT運用の前提が崩れます。
  • 代わりに天然型エストラジオール+(必要なら)低用量CPAを別建てが、エビデンスに沿った形です。

「話題だから」「安いから」で手を出す前に、まずはエストロゲン総覧絶対に禁止されたエストロゲンに目を通してください。安さの裏にあるコストは、あなたの命や血管で支払うものかもしれません。


参考文献

  1. Coleman E et al. Standards of Care for the Health of Transgender and Gender Diverse People, Version 8. Int J Transgend Health 2022;23(S1):S1-S259. DOI:10.1080/26895269.2022.2100644
  2. Hembree WC et al. Endocrine Treatment of Gender-Dysphoric/Gender-Incongruent Persons. J Clin Endocrinol Metab 2017;102(11):3869-3903. DOI:10.1210/jc.2017-01658
  3. Canonico M et al. Hormone therapy and venous thromboembolism: an updated overview. Maturitas 2018. DOI:10.1016/j.maturitas.2015.06.040
  4. Vinogradova Y et al. Use of hormone replacement therapy and risk of venous thromboembolism. BMJ 2019. DOI:10.1136/bmj.k4810
  5. de Blok CJM et al. Amsterdam cohort 50-year follow-up. Lancet Diabetes Endocrinol 2021. DOI:10.1016/S2213-8587(21)00185-6
  6. Meyer G et al. Safety and rapid efficacy of guideline-based gender-affirming hormone therapy. Eur J Endocrinol 2020. DOI:10.1530/EJE-19-0463
  7. Kuhl H. Pharmacology of estrogens and progestogens: influence of different routes of administration. Climacteric 2005. DOI:10.1080/13697130500148875
  8. Lee WC et al. Cyproterone acetate and meningioma risk. Sci Rep 2022. DOI:10.1038/s41598-022-05773-z
  9. EMA. Restrictions on use of cyproterone due to meningioma risk. European Medicines Agency 2020. https://www.ema.europa.eu/en/medicines/human/referrals/cyproterone-containing-medicinal-products
  10. Hudelist G et al. CPA-associated meningioma in transgender women. eClinicalMedicine 2026. DOI:10.1016/j.eclinm.2026.103791
この記事は情報提供のみを目的としており、医療アドバイスではありません。治療の決定は医療専門家にご相談ください。